【小さなアイに寄せる一編の詩】




>序

黒、空、虚、無
どこまでもどこまでも
いかほど敏集びんしゅう尖細せんさいなテオーグをもってしても
何ひとつ感じ取ることあたわざるまったき闇。
そして気が遠くなるほど遠く、ごくかすかに、
ほんの気休め程度に、ぼやりとピチカがちらちらと光る。

カリンドラに囲まれた 晶系銀河しょうけいぎんがの第42バルバトス
そのサータの片隅を漂泊ただよっている
ちっぽけなパルツェン。
そう、今のあなただ。

またひとつどこかで星が死に、超新星爆発する
そのたびイオンの風があなたに吹きつけ押し寄せて
数々のパチェネにさらされるだろう。
まるで大海のさざ波に弄ばれる ひとひらのアシビの葉
しかしあなたはこのクウを彷徨さまよいつづける。
矮小わいしょうなるパルツェン……
あなたはまだ何も知らない解らない
それでもなお
テオーグを研ぎ澄まして泳ぎ出すしか道はないのだ。
さあ、閉じられた目を開き、両手を広げよ。



>1

すこし前――あなたの時では永らく昔――まで
マイナス7等級 晶系銀河しょうけいぎんがのほとんどは
素養子そようしとミホイカのゆたかな常春とこはるのクウだった。
それが今はどうだ?
<青き鳥>やエシラどころかパルツェンの影すら消え
砂のカリンドラばかりに囲まれたサータ。
手の届かぬ 何京光年なんけいこうねん 先にしかピチカは見えない。
ああ、<青き鳥>、そして美しきエシラ……
感じないか? テオーグの古き記憶を思い出すのだ。




>2

エシラはジャム入りのヴェネ茶が好きだった。
フロッセオ語の勉強と片づけが嫌いだった。
玉兎ぎょくととともに走るのが好きだった。
あらゆるパチェネを蹴散らして
<青き鳥>と同じ青さのシアドレスをたなびかせながら
ロケット・パオペエの噴煙で
クウにめちゃくちゃなシュプールをえがいていた
未知への挑戦者、永遠の旅人、美しきエシラ……。




>3

バルバトスの中心に今も
ハニカム型の平らな湖が見えるだろう。
鸚鵡おうむ貝とトートムートの棲む、あの薄い群青雲母ぐんじょううんもだ。
かつてはあの湖も素養子そようしに満ちていて
ララックと<青き鳥>の楽園だったのだ。
信じられないだろう?
澄みきっていた水がああも青く染まったのは
<青き鳥>の血によってなのだよ。




>4

 晶系銀河しょうけいぎんがのうち第40から50を統治しているのは
悪名高き赤の女王だが
かの女はもともと王の器ではなかった。
王になるはずだったのはエシラだったのだ。
選ばれしエシラはしかし、退屈で重いその椅子よりも
さらなる冒険の旅を選んだ。
蟲のはびこる森、赤砂の竜巻の目、他人のパーティー、
恐ろしいジャヴァの棲む洞窟
あてなき放浪を続けている点では今のあなたと同じ。




>5

いくつものパチェネを踏み越えてきたようだ。
今のあなたはどうだ?
旅慣れてきたころか? それとも中だるみしているか?
まずはシトロンプレッセでも飲んで落ち着くがいい。
広大な闇のクウを彷徨さまよう小さきパルツェンよ
<青き鳥>を探す旅の者よ
ひとときの休息を許そう
そしてまた立ちあがり、歩を進めるのだ。




>6

夢を見た。
もっとも強く、無垢なテオーグをもつ勇猛なパルツェン
老いを知らない永遠の聖少女
<青き鳥>……旅人……。
あれは……ありし日のエシラか?
はたまた、それとも、もしや……
遠くない未来のあなたの姿?




>7

漂泊ひょうはくのパルツェン、あなたの名は何だ?
そうか……
 アイ
すべてのクウを包む情、<アイ>
空の色、海の色、<青き鳥>の翼の色、<アイ>
あなたではなく、彼/彼女でもない私<アイ>
広く見渡し見極める眼、<EYEアイ>
だれにも捕まることのない虚数、<アイ>
不思議の国のエシラ<ECiLA>の血を継ぐ者…… i ……

小さきアイ
いや、
大いなるECiLA  エ   シ   ラを濃縮し洗練して残った中央
進化をとげた聖旅人せいたびびとよ
あなたのための未知はまだ残されている
冒険を続けるがいい
その心のおもむくままに。



                       Fin_■


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