【月流しほし散華さんげ
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著作権は 鏡アキラ にあります
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もちろんこのお話は単体でも楽しんでいただけますが、
拙作【ひゅーどんぱらら】を読んでいただくと
より楽しんでいただけるかもしれません。
こちらもぜひよろしくお願いします。

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25分くらい

レンジ:男性:主人公。優しい。二十代後半。

オトカ:女性:ヒロイン。おとなしめ。二十代後半。

ユウマ:男性:ケイナと幼なじみ。お調子者。二十代後半。

ケイナ:女性:ユウマと幼なじみ。明るい。二十代後半。





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ユウマ:――十年。
    あれからもう十年だ。
    長いようで短い日々だった。
    学生だった俺達は、三十間近の大人になった。
 
ケイナ:――夜空に星が集まるように、
    真夏に花火が咲くように、
    十年後の今夜、あたし達はまた出会う。
 
レンジ:――僕達は、あの夏の君に、
    今度こそ「    」をしなくちゃいけない。
 

(間)


レンジ:――ぬるい潮風が賑わいを運んでくる午後六時。
    暮れかけのまだ明るい海浜(かいひん)公園に
    出店と祭り提灯がずらりと並んでる。
    今日は
    「みかさご海岸 盆の流灯会(りゅうとうえ)」と言って
    このへんではけっこう大きい夏祭りだ。
    夜になったら花火と、とうろう流しがある。
    焼きとうもろこしのいい香り、
    くじ引きの当たりを告げる鐘の音。
 
ユウマ:さてと。さきに座れるところ探すか
 
オトカ:そーだねー。立ちっぱなしはちょっと。
    なにか食べたいし
 
ケイナ:ね。高校生とかの頃は
    当たり前に立ちっぱなしだったけどさ。
    もうヤかな~。
 
ユウマ:もう若くねーからなぁ
 
ケイナ:おめーと同い年だっつーの!
 
ユウマ:そうだよ?
    だから全員もう若くないってこと。
 
オトカ:やだー! 目を背けたい事実なのに!(笑)
 
レンジ:でもみんな全然老けないよね。
    アラサーなのにそういう感じしない。
 
ユウマ:わかる!
    オトカちゃんなんか、
    大人の魅力は増したのに、
    悪い意味で老けたとこ全然ねーもん
 
ケイナ:おいこらユウマ。
    ナチュラルにあたしを外したな今。
 
レンジ:いや、ケイナは逆。若いんだよ。
    社会人一年目とか言っても通じるくらい
 
ユウマ:そうそう、まだ大人の魅力すらついてねー……
    イテッ
 
ケイナ:なーんでそうあたしをディスらずにおれんかね!?
 
オトカ:あはは!
    でもちょっとわかる、
    だってケイナちゃん肌ツヤッツヤじゃん!
    ねえ、化粧品とかなに使ってる?
 
ケイナ:やーもーありがとオトカー!!
    今使ってるのは安いやつだよ。
    化粧水は安くていいから
    バシャバシャ使えるやつがいいと思う。
    でもそろそろもうちょっとお金かけようか迷ってて
 
ユウマ:あのサーセン、
    ガールズトークは
    また今度にしてもらっていいっすか……
    せっかく久しぶりに集まったんで
    男子も混ぜてもらって……
 
オトカ:あ、混ざる?(笑)
    性別問わずスキンケアは大事だよ!
    日焼け止めとか塗ってる?
 
ユウマ:ひえっ、レンジ助けて!
 
レンジ:ごめんユウマ、僕は日焼け止めと化粧水使う。
    冬はたまにクリームも使う
 
ユウマ:裏切り者!!

レンジ:――ユウマは中一で同じクラスになってすぐ意気投合した。
    ケイナはユウマの幼なじみ。
    オトカは高校の途中で仲良くなった。
    卒業してからは別々になっちゃったけど、
    とにかく同じ高校出身の友達四人で
    久しぶりに集まったわけだ。


(短く間)


ケイナ:懐かしーねー。
    この四人で夏祭り来たよね高校んとき
 
ユウマ:早いなー、あっという間だわ。
    ……えっあれから何年?
    八、九……十年?
    うわもうそんなに経つの?
    年月早すぎね? ビビるわ
 
レンジ:前回たしかケイナとオトカは浴衣着てたよね
 
オトカ:着てた着てた!
    ケイナちゃんが青い浴衣にオレンジの帯でさ、
    私がピンク系だった
 
ケイナ:よく憶えてんね!? でもそうだった気がする
 
ユウマ:おーいお嬢様、飲み物買うぞー。なにがいい
 
ケイナ:そりゃもうビールよ!
 
ユウマ:絶っっ対お嬢様になれないのが
    回答からにじみ出とるな
 
ケイナ:だって夏だよ!? ビールでしょ!
    チンカチンカのルービーでしょ!!
 
ユウマ:オッサンじゃねえか。
    お嬢様の対極の存在だぞお前
 
オトカ:ふふっ、ねえ、
    あのときもこんなやりとりしなかった?
 
レンジ:えーっと……そうだ、
    ケイナが「お祭りといえばラムネでしょ!」って言った
 
オトカ:あとユウマくん前回も「お嬢様」って言ってたよ
 
ユウマ:そうだっけか?
    いやあ、まーったく成長してませんね俺ら。
    で? ビール何人?
    それともラムネにする?
 
ケイナ:ビールの人ー
 
ユウマ:はーい
 
レンジ:じゃ僕も
 
オトカ:ごめん、空気読まないけどさ、
    レモンサワーあったら私そっちがいいな
 
ケイナ:あっ! レモンサワーも捨てがたいね!!
 
ユウマ:どっちだよ
 
ケイナ:ん~~~~~、やっぱビール!
 
ユウマ:あいよ。ビール三つとレモンサワーな
 
レンジ:食べ物はどうする?
 
ケイナ:はいせんせー
 
レンジ:はいケイナくん
 
ケイナ:イカ焼き食べたいでーす
 
オトカ:あー! いいね!
 
ケイナ:ビールでもレモンサワーでも合うでしょ
 
ユウマ:いいな! ほかは? 俺牛串買うけどいる?
 
オトカ:やっぱりお肉だねぇ
 
ユウマ:えへへーお肉だいちゅきぃ~
 
ケイナ:うわキッモ幼児退行してるこのオヤジ
 
ユウマ:おいやめろ、泣いちゃうだろ。
    さて。
    んじゃあ、ガールズは飲み物買ってきてくれる?
    男どもは食い物買ってくるから
 
オトカ:らじゃー!
 

(間)

 
ユウマ:こんだけありゃあいいかな
 
レンジ:いいでしょ。……ん?
 
ケイナ:(ナンパ男に向かって)え~?(笑)
    どーしよっかな~。
    お兄さん達は? 二人?
    そうなんだー。この辺の人?
 
オトカ:(困り気味)ケイナちゃんってば……あはは。
    私達、あの、友達を待ってるんですよ。
    ……いや、「いーじゃん」って言われても……
 
ユウマ:(割り込む)ねー! そうよねオトカ!
    困っちゃうわよね!
    いくらアタシ達が綺麗だからって!
    困るんですケド!
    ケイナもふざけてる場合じゃないわよ!
 
ケイナ:あっははは!! やばすぎ!!
    こんなんが連れなの恥ずかしいわ
 
ユウマ:うっせ、バーカ。(ケイナをこづく)
 
レンジ:あはは。……まあ、そういうわけで、
    僕らの連れなんで。すいませんけど遠慮してください。
 
ユウマ:(ナンパ男を尻目に)ったく、
    なーにが「お兄さんこの辺の人~?」だよ
 
ケイナ:だってこんなちゃんとしたナンパ
    久々にされたから
    ちょっと嬉しくなっちゃって。てへ!
 
ユウマ:うわウッザ。歳考えろよ
 
ケイナ:は?
    その歳に見えないからナンパされてんですけど?
    まーでもオトカ困らせちゃったよね、
    ごめんごめん~
 
オトカ:ううん、大丈夫だよ
 
レンジ:ま、なにもなくてよかったよ。
 
オトカ:ふふ。また助けに来てくれて嬉しかった。
 
ケイナ:また?
 
オトカ:十年前もちょっとはぐれた隙に絡まれちゃって、
    レンジくんが
    「彼女になんか用ですか?」って助けてくれたの
 
ケイナ:ヒュー! なにちょっとレンジやるじゃん!
 
レンジ:そうそう、それでさ、
    「彼女なんて言わせちゃってごめんね」って
    オトカが言うわけ。
    僕はほんとは英語でいうSheみたいな、
    代名詞のつもりで言ったんだけど、
    『恋人』って意味もあったなーって気づいて
    慌てて「ごめん変な意味じゃないよ!」ってなってさ(笑)
 
ユウマ:あ~、バカ。レンジそこはしれっと
    「そんなことないよ」って言えよ
 
ケイナ:レンジそういうとこ抜けてるっていうか
    生真面目だからな~
 
オトカ:でもそこがかわいいとこだよ、レンジくんの。
 
ユウマ:わかる
 
ケイナ:それな
 
レンジ:みんな僕のドジについてなにをわかりあってるの!?
    いいからほら、乾杯しようよ。
    ぬるくなっちゃうよ
 
ユウマ:そうだ、やべやべ。
    んじゃあ僭越ながら、えー、
    このたびは久々にお集まりいただき……
 
ケイナ:(さえぎり)はいかんぱーい
 
ユウマ:てめ!
 
オトカ:ふふっ、かんぱーい!
 
レンジ:かんぱーい(笑)
 

(間)

 
ユウマ:食ったゴミ捨ててきたぞー
 
オトカ:おかえりー、ありが……
    ぷっ、あははは!
    えー! かわいい! お面買ったの?
 
ケイナ:ミョーに似合ってて意外と笑えない。
 
ユウマ:笑ってくれよ~。七百円もしたのに
 
レンジ:いまもあるんだね、ひょっとこのお面って
 
ユウマ:あったあった、ひょっとこ、おたふく、狐。
    あとはほとんどキャラものだな
 
ケイナ:ニチアサヒーローなら、
    あたしは見てないけど
    友達で見てる人何人かいるよ
 
オトカ:今ってどんなのやってるの
 
ケイナ:今はキュア……なんだっけな……。
    ライダーのほうはライダーウィスプってやつなんだって。
 
ユウマ:ウィスプ? わっかんねー。
    んで、そうそう、
    食べ物以外の遊ぶ系の屋台もけっこうあったぜ。
    やってこねえ?
 
レンジ:いいね! なにあった?
 
ユウマ:全部見たわけじゃないけど
    だいたいあるんじゃね?
    金魚すくい、射的、ヨーヨー釣り、輪投げ……
 
ケイナ:金魚すくいな~。
    やりたいけど、そのあと飼うのがな~。
 
オトカ:あー、それあるね。
    ちゃんと飼ってあげないとかわいそうだし
 
レンジ:とすると射的とか輪投げが安定かなあ?
 
ユウマ:そうだな、そのへんだろうな。
    とりあえず行って見て決めるんでもあり
 
オトカ:ありあり! 行ってみよー
 

(間)

 
ユウマ:ココアシガレットってこんな味だったっけ?
 
オトカ:そうだね。
    思ったよりも甘くないというか
    ココア感はないよね。
 
レンジ:僕はハッカパイプが思った以上に甘くて驚いてる。
    もっとスースーしてるかと思ってた。
 
ケイナ:子ども向けのおもちゃだからねえ。
    てかさ、オトカやばくない!?
    射的うますぎ!
    弾五発で景品二個も取れないよね普通。
    シビれたわー
 
オトカ:コツがあるんだってー。
    慣れればみんなもいけるよ。
 
レンジ:いや、コツ聞いたけど、僕できなかったもん。
    やっぱり素質あるんだよ。
 
ユウマ:そうだぞ!
    俺なんかめいっぱい腕伸ばしたけど
    無理だったんだから
 
ケイナ:いばることじゃないんですけど。
    ……っと、そろそろ花火始まるね。
    見えるほう行こ!
 
レンジ:――撃ち落としたココアシガレットを
    ポリポリと噛み砕きながら歩いていく。
    薄暗くなってきた空には
    天の川がかすかに見てとれる。
    祭り提灯の波をくぐりぬけて広場に出ると
    座って眺められそうな場所は
    あらかた埋まっていて、
    車止めにでも寄りかかりながら
    立ち見するしかなさそうだ。
 

レンジ:――そして始まる、光と音。
    ひゅるる、どおん、ぱぱぱぱん。
    咲いては散る星の華が
    見上げる僕達を照らしている。
    キクにボタンにカスミソウ、
    どんな花と比べたって、
    あの頃以上に綺麗になったオトカの横顔のほうが
    僕の視線を引き留めて離さない。
 
オトカ:綺麗だね……。
    ……こんな風にみんなとまた会えるなんて
    思わなかったから。
    ほんとに、嬉しい。
 
レンジ:――あれから十年だ。
    他の友達はもちろん、
    恋人だってできたこともある。
    それでも、
    小さな幸せを噛みしめるようなオトカのつぶやきは
    今夜ここにいる全員の心に
    じんと響いたに違いなかった。
 
レンジ:……また来ようよ。
    大人になって忙しくなったけどさ、
    たまに会うくらいなんとかなるって。
 
ユウマ:そうそう。結局全員独身貴族だったしな!
 
ケイナ:いくつになっても一言多いんだよなーコイツ。
    でもほんとそう。また集まろ?
 
オトカ:(寂しげに微笑む)うん、そうだね。また来たいな。
 
ケイナ:…………。
    ねえ、帰りにさ、手持ち花火やんない?
    打ち上げ花火ももちろんいいけど、
    そう言えば手持ちもずいぶんやってないなあって。
    
ユウマ:あ、いいな。
    俺も大学のサークル合宿でやったのが最後だわ。
 
レンジ:僕なんか十年前このメンツでやったっきりかも。
    いいね、やろうやろう。
 
オトカ:……! うん……ありがと、みんな。
 

(間)
 

レンジ:――変わるがわる酒を買ってきては
    たわいない話をした。
    高校を卒業してから今まで。仕事や趣味。
    友達や、過去の恋人の話に、
    家族の話や将来どうするなんて話まで。
    みんな大人になったんだ、
    夢のない愚痴とかも出るけど、
    酒のせいか懐かしさのせいか
    そんな話題でも笑いあえた。


(間)


ケイナ:あ、花火第二部開始だって。
    あー! この歌懐かしい!
    まあまあ前の曲だけど、
    コレ聞くと夏って感じしない?
 
ユウマ:懐メロだけに?
 
ケイナ:え、ちょっとやめてよ
    あたしがスベったみたいになるじゃん
 
ユウマ:あーあどうすんだこの空気
 
ケイナ:あたしのせいにしないでよ!
 
オトカ:あっはははは! だめだってもー。ふふっ。
    やー今日やばい。
    久々にこんな笑ったかも。
 
レンジ:はは、僕もそう。
 
ユウマ:オトカちゃんって酔うと笑い上戸になるんだな
 
ケイナ:ね。長い付き合いで初めて知ったわ
 
オトカ:ふふ。
 
ユウマ:……やっぱりさあ、
 
ケイナ:ん?
 
ユウマ:こういう長い友達っていいな。
 
ケイナ:あー……そうねぇ。
 
レンジ:うん。
    ユウマとケイナとオトカと友達になれて……
    しかもこんなに長くこうして付き合い続けられて、
    ほんとによかった。
    ……みんな、今日来てくれて、ありがとう。
 
ケイナ:なーに言ってんの。それは、
 
オトカ:(かぶせ)それは。
    …………それは、私のセリフだよ。
    みんな、本当にありがとう。
 
ケイナ:オトカまで、もう、大げさだなあ
 
オトカ:ううん。
    だって、ほんとのほんとに、すっごく嬉しいから。
 
レンジ:――ふいにずいぶんとしっかりした口調で言うから、
    僕達はオトカに視線を集めた。
    花火の明かりに横顔を染められた、
    あの夏よりいくぶん大人びたオトカは、
    少し悲しさをにじませた笑顔で空を見上げていた。

ユウマ:え……はは、なにオトカちゃん、急にどうした?
    改まることねえって。俺らの仲じゃん。

レンジ:――オトカはゆっくりと僕達を振り返り、唇を開く。

オトカ:……ね、憶えてる?
    私は誰?
    私は――「なんだった」?

ケイナ:「なんだった」……?
    え、「なんだった」ってなに?

レンジ:……あ……
 
レンジ:――花火が咲くように、記憶がはじける。
    僕達は声も出せないで、ただ彼女を見つめた。

オトカ:そう。そうだよ。私は……。
 
レンジ:――君は幻。
    ひと夏のあいだ友達だったあの子。
    十年前の宵祭り、花火とともに消えていった。
    ラムネビンの中で揺れるビー玉の音。
    火薬の匂いのする潮風。
    少しさみしい甘さをしたハッカアメ……
    夏が過ぎたら忘れてしまう、淡く儚い幻。
 
ユウマ:オトカちゃん……
 
ケイナ:い、いや、嘘だよ! おかしいじゃん!
    卒業してから連絡あんまとってなかったけど、
    今年に入ってオトカから連絡くれたんじゃん。
    みんな夏なら地元で集まれそうだって、
    日程調整してくれて!

オトカ:ごめんね。それも嘘なんだ。
    ねえケイナちゃん。
    私、高校の卒業式、いた?
    そもそも私達、いつどんなふうに友達になったの?

ケイナ:卒業式って……あれ……?
    いや、ちが、そんなわけ

オトカ:ううん。君達はずっと三人だった。
    私なんていなかったんだよ。

ケイナ:違う!

オトカ:違わない。

ケイナ:嘘だよ!

ユウマ:ケイナ、

ケイナ:おかしいって!

ユウマ:ケイナ。
    お前も本当はわかってんだろ。
    俺も今思い出した……
    そんな子、いなかった……。

オトカ:ひと夏でもいい、
    学校に行ってみたい、友達がほしいって、
    神様にお願いしたの。
    まさか叶うなんて思ってなかった。

ケイナ:だったら! あたしは!
    あの時なんのためにレンジのことを……!!
    オトカがいたからじゃん!!
    それも嘘だっていうの!?

オトカ:そうだよ。ぜんぶ嘘。

ケイナ:あんたねえ!!

ユウマ:やめろってケイナ!

オトカ:えへへ……そうだね、怒って当然だと思う。

ケイナ:違う……! 怒ってるんじゃない!
    あたしは……ただ……!(涙)

オトカ:うん……うん。
    わかってる。……ごめんね。
    本当はあのひと夏だけでお別れのはずだった。
    また会えたのは、たぶん、
    レンジくんのおかげなの。
 
レンジ:……僕?

オトカ:うん。
    レンジくん、十年前のお別れの時に願ってくれたでしょ。
    「また会おうな」って……
    「忘れないから、ずっと待ってるから」って
 
レンジ:……そっか。
    神様、僕の願いも聞いてくれよって、あの時祈ったの、
    十年越しに叶えてくれたんだ……。
 
ユウマ:……。
 
ケイナ:じゃ、じゃあ、あたしとユウマも願うよ!
    十年後二十年後になってもいい、
    また会えるよね!?
 
オトカ:うーん……どうかなあ。
    今みんなと話せてるの、ほんとに奇跡なの。
    私の力ももうそんなになくて……
    花火ももうすぐ終わるしね。
 
ケイナ:やだ! そんなのいや!(涙)
    会ってくれないんなら、嘘ついたの怒るから!
 
オトカ:ふふふ。ありがと、ケイナちゃん。
    って、怒ってる人にお礼言うの変か。あはは。
 
ユウマ:……お別れ、なのか。
 
オトカ:うん。たぶんそう。
    今度こそ「さよなら」しなくちゃ。

ユウマ:……っ、なあ、それさ、
    どうしても今日じゃなきゃいけねえの?

オトカ:あはは。だって、今日お盆じゃん。
    とうろう流しってつまり送り火だよ?

ユウマ:! ああ……そう、か……そういうことか……。
 
オトカ:やだ、ねえ、ユウマくんまでそんな顔しないで。

ユウマ:(苦笑)いくら俺だって
    こんなときにふざけらんねえよ。

オトカ:そっか……まあ、そうだよね。

レンジ:オトカ。
 
オトカ:うん?
 
レンジ:僕からももう一回言わせて。
    また会ってくれて、ありがとう。
    ユウマとケイナが願うぶん
    また会える可能性あるなら、十年だって待つよ。
 
オトカ:! ……ふふ、ありがとう。
    これじゃあお互いにありがとう言い合っちゃって
    きりがないね……。(涙で声が震える)
 
レンジ:そうだよ。終わりなんかない。
    僕達四人、ずっと友達だ。
    さよならなんて言うなよ。
    ほら、約束だ。

オトカ:……、うん。うん。ありがと……。

レンジ:――ひゅー、どおん、ぱららら。
    指切りの向こうから華の散る音が遠く聞こえた。
    とうろう流しが間もなく始まります、
    ボランティアスタッフは
    本部テントにお集まりください、
    そのアナウンスを聞かなくても僕達には
    花火大会の終わりがわかった。
    ほどいた小指がゆっくりと消えていく。
 
オトカ:ほんとに、ありがと、
    ケイナちゃん、ユウマくん、レンジくん。
    ばいばい……
    ……ううん、またね……。

(間)


レンジ:――月明りを小さく閉じ込めたように灯るとうろうが、
    おだやかな波に揺られて沖へと流れていく。
    遠い世界へ帰っていく魂の群れを見送った僕達は、
    途中のコンビニで小さな線香花火のパックを買い
    砂浜で遊んでから帰りの電車に乗った。
    ハッカパイプの涼しい甘さが切なさを煽るけど。
 
ケイナ:――それでもあたし達は、もう忘れたりしないから。
 
ユウマ:――だから、きっとまた出会えるはずだ。
 
レンジ:――君と僕達との四人で、今度こそ「約束」したんだから。



                       fin_■


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