【ひゅーどんぱらら】


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著作権は 鏡アキラ にあります
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もちろんこのお話は単体でも楽しんでいただけますが、
拙作【月流し星散華】も読んでいただくと
より楽しんでいただけるかもしれません。
こちらもぜひよろしくお願いします。

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25分くらい

レンジ:男性:主人公。優しい。

オトカ:女性:ヒロイン。おとなしめ。

ユウマ:男性:ケイナと幼なじみ。お調子者。

ケイナ:女性:ユウマと幼なじみ。明るい。





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ユウマ:おーい、こっちこっち

ケイナ:おまたせー

オトカ:ごめんね、待った?

レンジ:ううん。さっき着いたとこ。
    あ、そこ段差あるから気を付けて

オトカ:ありがと、レンジくん

レンジ:――ぬるい潮風が賑わいを運んでくる午後六時。
    暮れかけのまだ明るい海浜(かいひん)公園に
    出店と祭り提灯がずらりと並んでる。
    今日は
    「みかさご海岸 盆の流灯会(りゅうとうえ)」と言って
    このへんではけっこう大きい夏祭りだ。
    夜になったら花火と、とうろう流しがある。
    昼には広場で大道芸のショーもあったらしい。
    焼きとうもろこしのいい香り、
    くじ引きの当たりを告げる鐘の音。

ユウマ:さーて、どこから回りましょうか、お嬢様?

ケイナ:苦しゅうないわ、
    エスコートを許してさしあげてもよろしくてよ

ユウマ:お嬢様ってガラじゃねーだろケイナは。
    どう考えてもオトカちゃんのことだろ

ケイナ:はー!?
    清楚で可憐なお嬢様だろーが!!

オトカ:あはは。そうだよユウマくん。
    ね、レンジくん?

レンジ:(笑って)そうだそうだ、よくないぞユウマ

ユウマ:なんだよレンジの裏切り者!

レンジ:――ユウマは
    中一で同じクラスになってすぐ意気投合した。
    ケイナはユウマの幼なじみ。
    オトカは、きっかけは忘れたけど、
    ここ一・二カ月くらいの最近仲良くなった。

ケイナ:てかさぁ、
    せっかく浴衣来てきたガールズに言うことないの

ユウマ:歩きづらそう。転ぶなよ。

ケイナ:あ~~~サイッアク。
    だからおめーはモテねーんだよ!

ユウマ:おめーは黙ってりゃ
    もうちっとモテたかもしんねーのになー。
    口開くとこの有様だからなー。

ケイナ:低レベ男にモテたってウザいだけなんで
    むしろよかったまであるんですけど?

レンジ:まあまあ、許してやってよ。
    二人が綺麗だからこいつ照れてんだよ

オトカ:えへへ、ありがとう。

ケイナ:ありがとレンジ!
    ほら、ユウマもこれくらい素直に褒めらんねーの?

ユウマ:レンジ~。こいつ調子乗るからダメだって

レンジ:あはは。じゃあ、ぼちぼち回ろうか

オトカ:うん、いこいこ

ケイナ:あ、ねえ、ラムネあるみたいだよ!

ユウマ:俺コーラがいい

ケイナ:わかってないな~、お祭りだよ?
    氷で冷やしたラムネを
    ビー玉よけながら飲むのがいいんじゃん。
    コーラなんかいつでも飲めるじゃん

ユウマ:だーってー。ガラス瓶だぞ

オトカ:中身おんなじでも
    瓶で飲むとなんとなくおいしく感じるよねえ

レンジ:すいませーん、じゃあ、コーラとラムネください。
    えっと、ラムネは誰と誰?

オトカ:私もラムネがいいな

レンジ:じゃあラムネ三本、コーラ一本お願いします。

ユウマ:(受け取る)キンキンだ! いいねえ。

オトカ:よい……しょっ
    (ラムネの栓を開ける)わっ

レンジ:おわ、大丈夫? ティッシュあるよ

オトカ:大丈夫。ぎりぎりせーふだった

ケイナ:(飲む)くーっ、うまー!

オトカ:ラムネ、おいしいんだけど、飲むの下手なんだよね私。
    ビー玉落ちてきちゃうの

ケイナ:あーこれね、
    このボコボコしてるとこに
    ひっかけるんだよビー玉を

オトカ:え! そうなんだ! 知らなかった! 

レンジ:みんな腹減らない? 食べたいものある?

ユウマ:唐揚げ串もしくは牛串!
    一番安くてボリュームある店探そうぜ!

ケイナ:お! いいね、肉食いたい!

ユウマ:せっかく浴衣着てきて肉にかぶりつく女……

ケイナ:文句あんの

ユウマ:浴衣に肉汁こぼすなよ

ケイナ:あたしのことなんだと思ってんのよ!

オトカ:あははは。うける。私はねえ、クレープ!

レンジ:クレープ屋台すぐそこだけど並んでるね。
    なにがいい? 僕並んでくるよ

オトカ:そうだなー、バナナかイチゴか……

ケイナ:見て決めたいでしょ。二人で並びなよ。
    あたしとコイツは串焼き屋台探すからさ、
    買ってから合流しよ

レンジ:そうだね。んじゃまたあとで


(間)


オトカ:えへへ、トッピングナッツおまけしてもらっちゃった

レンジ:クレープっていろいろあるのに
    結局毎回チョコバナナにしちゃうな

オトカ:わかる~。安定なんだよね

レンジ:焼きそばも買えたから座れるとこ探して
    ユウマたちと合流しようか
    
オトカ:うん!

レンジ:あ、電話……もしもし、ユウマ?
    そうそう、ちょうどいま買ったとこ。
    座れるとこ探して合流しようと思って。
    あ、そっちにイスとテーブルあった?
    じゃあ行くよ。うん。はーい。
    オトカ、行こ……あれ? オトカ?

オトカ:(酔った男に絡まれている)
    ……いえ、あの、友達と来てて……
    あのっ、友達待ってるんで……!

レンジ:!
    あの、ちょっと。すいません。
    彼女になんか用ですか。僕の連れですけど。
    ごめんねオトカ、行こ

オトカ:……はぁ、よかった……。ありがとう、レンジくん。

レンジ:ごめん、大丈夫? 怖かったでしょ。
    あんま離れないほうがいいね。

オトカ:ううん、私こそごめん。彼女なんて言わせちゃって

レンジ:……えっ、あっ!
    あ、あれは違くて! なんて言うか!
    「この人」って意味の彼女で!
    別にその、変な意味じゃなくてさ!
    だからあの、嫌だったらごめんね!

オトカ:あっそういうことか!
    ううん! 私こそごめんね!
    ぜんぜん嫌じゃないから大丈夫、
    むしろありがとうね

レンジ:そっか、よかった……

オトカ:うん

レンジ:……オトカ、その……
    またはぐれるといけないからさ……
    えっと……

オトカ:うん?

レンジ:て…………いや、あの……荷物!
    焼きそばの袋のそっちがわ、持ってて!

オトカ:ああ、うん、そうだね。じゃあ、そうする。

レンジ:うん。行こっか。
    もたもたしてるとケイナに怒られちゃうからね

オトカ:うん。


(間)


ケイナ:おっつー。

オトカ:あ、型抜きやってる!

ケイナ:うん。
    この細いところが難関なんだよね~
    ……っと……

ユウマ:へいな、いふぁいと、へさひひようはよな
    (ケイナ意外と手先器用だよな)

ケイナ:食いながらしゃべんな

ユウマ:んぐ。オトカちゃんクリームついてるぞ

オトカ:え! どこ!

ユウマ:うっそー

オトカ:もう、ユウマくん!

ユウマ:ハハハ

ケイナ:あー! 失敗した!
    ユウマがアホなこと言うから!

ユウマ:関係ねーだろ

オトカ:あ、さっき射的見つけたんだよ。
    食べたらやらない?

ユウマ:おっいいな! 腕がなるぜ

レンジ:ユウマ得意なの?

ユウマ:やったことないけど、腕が長いほうが有利だろ

ケイナ:なにもとれなかったら罰としてなんかおごりな

ユウマ:おぉ、いいよ、受けて立つ!


(間)


ケイナ:ねー、オトカのイチゴ、ひとくちちょうだい

オトカ:いいよ。ケイナちゃんのレモンももらっていい?
    ユウマくん、かき氷ごちそうさま

ユウマ:くっそぉ。あの射的ぜってー滑り止めついてるよ!

オトカ:かき氷シロップって色違うだけで味は同じだって言うけど
    さすがにレモンとイチゴだと違うよね?

レンジ:香料が違うからじゃない?

ユウマ:オトカちゃん、俺もひとくちちょーだい

ケイナ:だめでーす

ユウマ:おめーに聞いてねーよ

ケイナ:ユウマ全種類シロップかけたんだから
    もらう意味ないでしょ

ユウマ:意味はある!
    美少女の食べかけは百倍うまい!

ケイナ:えぇ……キッモ……

ユウマ:おい、冗談だから本気で引くな

ケイナ:冗談でもキモい。

レンジ:でもさ、
    オトカが意外と射的上手くてびっくりしたよね。

オトカ:えへへ。
    あのね、カドとか端っこのほう狙うのがコツなんだ

ケイナ:それでもあんなにうまくいかないよ!
    ドロップス缶、
    コルク追加なしで落としたもんね

ユウマ:カッコよかったよな。
    ……っと、そろそろ花火始まる。
    見えるほう行こうぜ


(短く間)


レンジ:――撃ち落としたアメ缶を
    がらがら鳴らしながら駆けていくオトカ。
    薄暗くなってきた空には天の川がかすかに見てとれる。
    祭り提灯の波をくぐりぬけて広場に出ると
    座って眺められそうな場所は
    あらかた埋まってしまっていて
    ロープが張られたぎりぎりの位置で
    立って見るしかなさそうだ。

レンジ:――やがて始まる、光と音。
    ひゅるる、どおん。ぱぱぱぱん。
    どうでもいい、なんて、思ってるわけじゃない。
    花火は綺麗だ。
    それでもどうしたって僕にとっては、
    オトカの横顔をカラフルに照らす光、
    それ以上の価値じゃないみたいだ。


(短く間)


オトカ:綺麗だね……。

    ……私さ、みんなと花火見られてほんとによかった。


レンジ:――たからものを
    そっと胸にしまい込むように、
    一言一言を奥歯でぎゅっと噛みしめるように、
    オトカがつぶやいた。
    僕はなぜか一瞬泣きたくなるくらい切なくなって、
    ごまかすために笑った。

レンジ:なんだよ、大げさだな。来年もまたくればいいじゃん。

オトカ:(微笑んで)うん、そうだね。また来たいな。

ケイナ:…………。
    ねえ、帰りにさ、手持ち花火やんない?
    コンビニとかで買えるっしょ。
    あたしまだ、なんつーの、
    満たされない? じゃなくて……
    名残惜しいっつーか……
    うん、そう、名残惜しい。

ユウマ:え、なに急に。ケイナ。どうしたんだよ

ケイナ:いやー、なんだろ。
    わかんない。はは、おかしいね。

レンジ:ん……いいじゃん、やろうよ。

ユウマ:いやまあ、全然嫌とかじゃねえけど。
    いいと思う。うん、やろっか。

オトカ:……!……
    ありがと、ケイナちゃん、レンジくん、ユウマくん。


(間)


ケイナ:花火休憩タイムはいったね。
    あたしちょっとお手洗い行ってくる

ユウマ:あいよ

ケイナ:ユウマ荷物持ちね

ユウマ:えー

ケイナ:なにあんた、この人ごみに女の子一人行かせる気?
    危ないよね? ね???

ユウマ:わーかったよ、ったく

オトカ:いってらっしゃい。
    危ないもんね。ユウマくん優しいね。

ケイナ:(オトカとレンジが見えなくなるほど歩いてから)
    いやー、最初より明らかに人増えてるねー。

ユウマ:おい

ケイナ:あん?

ユウマ:あん? じゃねえよ。
    わざわざ俺まで連れ出してよ

ケイナ:わざわざとかじゃないって。
    言ったじゃん、荷物持ち兼護衛。

ユウマ:レンジとオトカ、二人っきりにさせてやろうって?

ケイナ:……

ユウマ:食い物買うのに並ぶつった時もそうだよな

ケイナ:……まあ、それは認める。
    だーってさあ、かわいいじゃん?
    セーシュンじゃん?
    若い二人に時間作ってあげたいじゃん

ユウマ:同い年だろーが

ケイナ:そうだけどさあ。

ユウマ:……なに譲ってんだよ。
    自分だってレンジのこと好きなくせに

ケイナ:(笑う)え、なになに?
    あたしがレンジ褒めたから?
    もしかして妬いてたり――

ユウマ:(さえぎり)だーかーら!
    なんでそうやってふざけて演じて隠すんだよ!
    何年の付き合いだよ。
    俺に隠せるとか思ってんじゃねえよ

ケイナ:……じゃあさ。
    あたしの思ってること
    そんななんでもわかるって言うんならさ。
    それもわかるはずじゃないの。
    好きな人には
    お似合いの相手と幸せになってほしいって

ユウマ:俺もそう思ってたよ

ケイナ:じゃあいいじゃん

ユウマ:お前は? ケイナは誰とどうやって幸せになんだよ?

ケイナ:あたしは……いいんだって。

ユウマ:バーカ

ケイナ:なんとでも言えば

ユウマ:そんな顔するくらいならやめちまえ

ケイナ:なにをよ

ユウマ:レンジをだよ

ケイナ:……そう、だねえ……そうなんだよねえ。

ユウマ:ッ……!(ケイナの両肩をつかみ)
    お前が!
    そんなんだから!
    俺いつまでも諦めらんねえじゃんよ!

ケイナ:え……?

ユウマ:なんだよ。気づいてなかったのかよ。
    バレてると思ってたのに。
    俺、ケイナのこと好きなんだ。ずっと前から。

ケイナ:う、そ

ユウマ:俺の好きなお前は、誰とどう幸せになんだよ?

ケイナ:……

ユウマ:レンジとくっつくんなら、幸せなら、
    それでいいって思ってた。
    でもお前、全然そうなってくんねえじゃん。
    ……だったらさあ、
    俺でいいだろって、思うじゃん……!

ケイナ:ユウマ……。

ユウマ:なあ

ケイナ:……なに……?
    (抱きしめられる)、っ……!

ユウマ:返事とか、くれなくていいから、
    ちょっとの間だけ……このままでいてくれよ。

ケイナ:…………うん。(そっと背に手を回す)


(間)


オトカ:あ、花火再開しちゃう。
    ケイナちゃんどうしたんだろ?

レンジ:でも下手に動くと入れ違いになるかもだから
    動かないほうがいいよ。
    ユウマついてるから、なんかあったら連絡来るだろうし

オトカ:そうだね……

レンジ:(笑って)どうする、
    二人がやたらいい雰囲気になって帰ってきたら

オトカ:ふふっ、冷やかしちゃおっか。

レンジ:ははは。

レンジ:――光と音のマリアージュをお楽しみください、
    なんて言って、
    第二部は音楽を鳴らしながらの花火らしかった。
    ナツウタに合わせて海上花火が咲き誇る。
    横を通り抜ける人をよけた拍子に
    オトカの手に触れてしまって、目が合う。
    一瞬ぴくりと震えた小さな手は、それでも、
    僕の手に触れる位置から逃げようとはしなかった。

レンジ:……オトカ

オトカ:ん……?

レンジ:好きだよ。

オトカ:え……

レンジ:困らせたらごめん。
    でもなんか、どうしても言いたくなったんだ。
    難しかったら返事はしてくれなくてもいい。
    今日、来てくれて、ありがとう。
    僕もみんなで花火見られて嬉しかった。

オトカ:(かすれた声)……なん、で……そんな……

レンジ:ん? (オトカの瞳の涙に気付く)
    あ……ご、ごめん、困る、よね

オトカ:違うの、違うんだ、
    困ったとか嫌だとかじゃないの……
    逆なの。嬉しいの。
    ねえ、なんでかな……
    最後って、みんな知らないのにさ、
    こんな……今日、
    楽しいこと、嬉しいことばっかりさ……!

レンジ:さいご……? って言った……?
    (青ざめる)最後って、なんだよ?

オトカ:私……私ね……。

レンジ:――オトカは花火を見つめたまま、
    僕の方を見ずに続ける。

オトカ:私さ、おばけ、なんだよ。
    どうしても学校行ってみたくて、友達がほしくて、
    神様にお願いしたの。
    そしたら、このひと夏の間だけ叶えてくれるって。

レンジ:はは……お……おもしろいじゃん、
    オトカ、作家の才能あるんじゃない……

オトカ:……ね、レンジくん、私といつどうやって友達になった?
    私は何組? 何部? 委員会は?

レンジ:それは……あれ……くそっ、えっと……、
    でも今ちょっと出てこないだけで

オトカ:(さえぎり)ううん。思い出せるわけないよ。
    だってないんだもん。
    ……私さ、ほんとに嬉しいんだ。
    レンジくんもユウマくんもケイナちゃんも、
    神様にも感謝してる。
    でも同じくらい悲しくて……
    ほんとに、だめだね私、欲張りだ……

レンジ:……なんで、なんで今日までなんだよ!?
    まだ夏終わりじゃないじゃん!!
    夏の間はいいんだろ!?

オトカ:あはは、レンジくん、今日なんのお祭りだと思ってるの。

レンジ:なんのって……
    (はっとしてから悔しそうに)
    …………お盆…………。

オトカ:せいかーい。
    お盆終わって送り火焚かれたら
    おばけはあの世にいかなきゃ。

レンジ:そんな……そんなのないよ……!(半泣き)

オトカ:泣かないで。
    ね、花火が終わってとうろう流しが始まるまで、
    あとちょっとしかないけど、
    その間は私レンジくんの彼女だよ。
    ふふふ。
    ねえ、恋人同士ってなにしたらいいのかな?

レンジ:――オトカが微笑むから、僕も涙をこらえて笑顔を作る。

レンジ:ふ……ははっ……。そうだな。
    なにしたらいいのか、僕もよく知らないや

オトカ:ちゅーとかしてみる?

レンジ:えっ。……僕は嬉しいけど。

オトカ:私も。でもさ……

レンジ:うん……

オトカ:あー、ごめん! やっぱ恥ずかしい!

レンジ:ははは、僕も。焦ってすることじゃないな。
    ……じゃあ、さ……あの……手、つないでいい?

オトカ:うん……いいよ。

レンジ:――オトカが遠慮がちに左手を重ねてくるから、
    僕は確かめるように少し強めに握ってみた。
    オトカの手は小さくて、柔らかくて、
    質量も体温もちゃんとあって、
    おばけだなんて嘘みたいだった。
    オトカが僕の右肩にそっと身を寄せる。
    ねえ神様、僕の願いも聞いてくれよ。
    この夜を止めてほしい。
    僕達の夏がもっとずっと続いてほしいんだ。

オトカ:あ……。

レンジ:どうした?

オトカ:そろそろ、とうろう流し、始まるみたい。
    ほら、足が消えだした

レンジ:……そっか。
    手持ち花火、できないんだな。

オトカ:うん。

レンジ:オトカ。

オトカ:うん

レンジ:(泣き笑い)……また……また、会おうな。
    忘れないから。ずっと待ってるから。

オトカ:(泣き笑い)ふふっ……。
    ありがとう。大好き。
    ばいばい……。

レンジ:――ひゅー、どおん、ぱららら。
    花の咲く音が遠く聞こえた。
    手の感触が消えていく、そして最後に、
    右頬に柔らかくて温かいものがそっと触れた気がした。


(間)


ケイナ:ただいまー。
    ごめんね、連絡入れたんだけど見た?
    ……って、えっ、どうしたの!
    なに!? 泣いてんの!?

レンジ:ううん、なんでもないんだ

ユウマ:どうした? 花火の灰でも目に入ったか

レンジ:うん、そう

ケイナ:あとで水道探して目洗いな?

レンジ:そうだね

ユウマ:いやー、遅くなってごめんな、レンジ。
    思ったより人がぎゅうぎゅうだったからさ、
    花火終わって人が少し減るまで
    あっちのほうで見てたんだよ。

レンジ:あ、着信記録。
    電話くれてたんだね、気づかなかった。

ユウマ:そうそう……
    お? おー!
    見ろよ! とうろう流し! めっちゃ綺麗!

レンジ:……うん……綺麗だね。

ケイナ:いいねー。
    じゃあ、海見える道通って帰ろうか。

ユウマ:おう、防波堤沿いってコンビニあったよな?
    て・も・ち・は・な・び!

レンジ:うん。……オトカのぶんまで、やって帰ろう。

ケイナ:オトカ……
    って……誰? 友達?(きょとんとして)

レンジ:あ……

ユウマ:ん? 女か? 女だな!?
    えーどんな子だよ?

レンジ:……ふふっ……。
    すっごいかわいい子だよ。僕の、彼女。

ケイナ:えー! いつの間に!

ユウマ:なんだよー! 紹介しろよ!

レンジ:ははは。そうだね……いつか話すよ。


(間)


レンジ:――小さな手持ち花火のパックを買って、
    砂浜で遊んでから、帰りの電車に乗った。
    缶入りドロップスのハッカアメを口に入れたとき、
    なぜだろう、もう終わったはずの花火の音が
    遠くで聞こえた気がした。




                       fin_■


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