【ホムンクルスはわらう】


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著作権は 鏡アキラ にあります
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15分くらい

 ユミ:女性:セレネという多重人格者の中にいる人格の一人。
       十三歳の女。泣き虫でよくイザヤにいじめられる。

イザヤ:男性:セレネという多重人格者の中にいる人格の一人。
       十九歳の男。乱暴で凶悪な性格。

ノゾミ:女性:セレネという多重人格者の中にいる人格の一人。
       十七歳の女。正義感が強く真面目。

 万屋:不問:ユミのもとに現れた怪しい商人。
  
登場人物は四人ですが
イザヤと万屋を兼ね役にでき、最少三人で上演可能です。

四人でやる場合


三人でやる場合


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 ユミ:――いつからかは、忘れてしまいました。 
    ずっとです。 
    あいつが現れてからずっと、いじめられていました。 

(間) 

 ユミ:痛い! いや! イザヤ、やだあ! 

イザヤ:(にやにやして)なあユミ。 
    おめえは泣くのが仕事だ。そうだろ? 
    だからどんどん泣けるようにしてやってんじゃねえか 

 ユミ:やっ! 痛いいたいいたいいたい! 
    ごめ、なさ……ごめん、なさい、イザヤ、ゆるし 

イザヤ:ほぉら。 
    そうやって謝りながら泣いてんのが一番なんだよなあ。 
    なあ! (顔を床に押し付ける)

 ユミ:うぶっ! 

ノゾミ:イザヤ! また! 
    もうユミに手を出さないでよ! どきなさい! 

イザヤ:出たな、でしゃばり女。ノゾミはすっこんでろ。 
    おいユミどうした? 
    泣くの止まってんぞォおらァ!(髪を引っ張る) 

 ユミ:いだいいだい! ご……べ……なざ…… 

イザヤ:ヒャハハハ! 
    もっと謝れよ。生まれてきてごめんなさいって。 
    私みたいなのが生まれてきたのが間違いなんですって 

ノゾミ:やめてよっ! ゆ、ユミを離せ! 

イザヤ:おっと!(カッターで牽制) 

ノゾミ:(腕に浅く傷が走る)つっ……

イザヤ:ハァイ隙ありー!(脇腹に蹴り) 

ノゾミ:ぐぶっ!!! 

イザヤ:あーんノゾミちゃんカワイソー! 
    カワイソーなユミを助けに来ただけなのに 
    一緒に痛い目に遭っちゃってカワイソー! 

ノゾミ:げほッ……この、ゲス野郎……! 

イザヤ:お褒めに預かり感謝感激ィ♪ 
    へへへへ! 

 ユミ:――(悲しい声)ずっとです。 
    ずーっとこの有様。 
    もう、いやだったんです。 
    「お前は泣くために生まれたんだ」 
    なんですか、それ。 
    意味わかんないじゃないですか。 
    私だって一人の人格なんですよ。 
    そりゃあ、セレネ以外の私たちは、 
    セレネという体を間借りして住んでる交代人格だけど。 
    だからって、そんな言われ方も、 
    こんな扱われ方もひどすぎるじゃないですか! 
    私だって、毎日泣かなくていい人生が欲しい! 
    だから…… 
    (一呼吸おいて急に冷徹な声) 
    だから、しょうがない、ですよね? 

(長めに間) 

 万屋:こんばんは、おはようございます、こんにちは! 
    お初にお目にかかります、どうもどうも初めまして! 

 ユミ:えっ、は、初めまして…… 
    ……!?(違和感に気づく) 
    あ、あなた、なんですか!? 
    どうやってこの……
    《セレネの談話室(わたしたちのへや)》に
    入って来たんですか! 

 万屋:そんなことは大した問題ではございません。 

 ユミ:だ、だれか! ノゾミちゃん!
    サクくん! オボロさん! 

 万屋:シーッ! お声が大きゅうございます!! 
    ワタクシはアナタ様の敵ではございません!! 

 ユミ:そんなの信じられるわけ 

 万屋:(さえぎる)ユミ様! ご容赦を! 
    もう泣き暮らす日々はお嫌でございましょう!? 

 ユミ:えっ 

 万屋:いかがでしょう、
    ワタクシめの話を数分お聞きいただいて、 
    それでもワタクシを排除すべきとご判断なさいましたら 
    それからどなたかお呼びいただくというのは 

 ユミ:…………話だけ、聞いてあげます…… 

 万屋:ははーっありがたき幸せ! 
  
 ユミ:なんで私のこと知ってるんですか…… 
    あなた誰ですか? なにしにここに来たの? 
 
 万屋:「なぜユミ様を存じ上げているか」が一つ目、 
    「ワタクシは誰か」が二つ目、 
    「なにをしに来たか」が三つ目の質問としましょう。 
    そのうち最初の質問についてはお答えしかねます。 
    情報もまた大切な商品ですからね。 
    まあ! 「商品」ですって!
    大ヒントワードをポロっと出してしまった
    ことでもありますし 
    また後半二つの質問はリンクしており 
    切っても切れない関係でもございますので 
    まとめてお答えさせていただきますね。 
 
 ユミ:……は、はあ……? 

 万屋:ワタクシはしがない商人(しょうにん)。 
    種々色々様々な
    万(よろず)のものを売り買いする 
    商い人(あきないびと)でございます。 
    名乗るほどの名はございませんが、 
    もし名前がないと呼びかけづらいようであれば、 
    そうですね、仮に、
    「万屋(よろずや)」とお呼びくださいませ。

 ユミ:はあ、よ、よろずやさん……でいいのかな 

 万屋:呼び捨てでよろしゅうございますが 
    さん付けでも結構でございます。 
    それで目的でございますけれども 
    商い人がお客様のもとにお邪魔する目的など
    世界にただ一つ!
    商売の営業に他なりません! 

 ユミ:商売……? 
    私になにかを買ってほしいんですか? 

 万屋:ンッフフ、そういう場合が大半ですが、
    今回は逆でございます。 
    すなわち! 
    (ふいに真面目な声音でゆっくりと) 
    ワタクシはユミ様から買い取りたいものがある。 

 ユミ:買い取り……? 
    私の持ち物なんてほとんどないですよ。 
    物なんてだいたいセレネのだし、 
    ミカとかノゾミのがちょこっとあるくらいだもん。 
    しかも売れるようなものなんか全然…… 

 万屋:ワタクシが今回買い求めに参りましたのは 
    物ではございません 

 ユミ:え? 
    ……まさか……なんか、変なこと考えてます!? 

 万屋:ノーンノンノンノン違います! 
    ワタクシ確かに
    そう褒められた趣味の持ち主ではありませんが 
    今回ばかりは違います!
    そんな目でご覧にならないで!! 
    コホン。 
    ……今回ワタクシが買い取りたいものは、 
    「人格」でございます。 

 ユミ:……は? 

 万屋:不要な……そう、「要らない」人格を、 
    ワタクシめに売っていただけませんか? 
    もちろんタダとは申しません、 
    相応のお支払いをご希望の形式にてお渡しいたします。 

 ユミ:(冷や汗)……いや、いやいや、
    だって人格って 
    ハイどうぞって渡せるものじゃないでしょ 

 万屋:(にんまりと笑う)おやぁ? 
    ハイどうぞと渡す方法がもしあるなら
    売っていただけると 
    そういう風に聞こえてしまうお答えぶりですねぇ? 

 ユミ:(語尾が小さくなる)
    そ……そんなこと、言ってないし…… 

 万屋:(ささやき)今は、どなたも近くにいらっしゃいません。 
    よろしいではございませんか。 
    たった十三歳の少女という身空(みそら)で 
    どれだけお辛い日々を過ごされてきたのか…… 
    涙袋がこんなに腫れるまで
    泣き暮らしてこられたのでしょう? 

 ユミ:(息が荒くなる)……! 

 万屋:いかがです? 

 ユミ:……売られた人格は……どうなるんですか 

 万屋:お求めの方に売ります。 
    例えば……
    悪趣味で物好きなコレクターの魔女の方など 
    喜んでご購入いただけるかもしれませんね。 

 ユミ:ハァッ、ハァッ……(傷だらけの手を胸に押し当てる) 

 万屋:ンッフッフッフ! 

 ユミ:……すか。 

 万屋:はい? 

 ユミ:……どうすれば、いいですか。 

 万屋:商・談・成・立。 
    (満面の笑み)まいどあり、でございます! 

(長めに間) 

 ユミ:(《外》に出てきて体を使っているユミ。
     鼻歌を歌いながら新しい服を着ている)
    ふんふーん。ふふ、かわいい!
    セーラーパーカー前から欲しかったんだよね。
    「ヘンゼル」の服はやっぱかわいいな~。

ノゾミ:(《中》から話しかける)
    新しい服?
    ユミも通販とかするんだね

 ユミ:たまにはいいでしょ?
    セレネもいいって言ったし

ノゾミ:うん
    そっちの包みは?

 ユミ:そうそう! じゃーん!
    おっきいぬいぐるみ、欲しかったんだぁ。
    ふわふわ~!

ノゾミ:……あのさ、ユミ……

 ユミ:なあに、ノゾミちゃん

ノゾミ:……その……
    買い物したお金……なんのお金……?
    私の知ってるセレネのお金は減ってないしさ……
    オボロもサクもミカも知らないって……
    あの、別に誰かのお金とったとかは思ってないのよ!
    でも誰も知らないユミだけのお小遣いって
    今まであんまなかったから、ちょっと、

 ユミ:……「ちょっと、」なあに?

ノゾミ:えっ?
    ……えっと、その、ちょっと、心配になって。

 ユミ:そっか!

ノゾミ:そうそう。
    怪しい人からなんか持ちかけられても乗っちゃだめだよ?

 ユミ:だーいじょぶだよ!

ノゾミ:そ、そうだよね 

 ユミ:よろずやさん、いい人だったもん。
    まさかこんなにもらえるなんて思わなかったけど、
    「今まで辛い目に遭わされた
     イシャリョーだと思えばいい」って。

ノゾミ:えっ?
    待ってユミ、よろずやさん、って……?
    それに慰謝料ってなに?
    なんの話してるの……

 ユミ:(ぬいぐるみを撫でながら)
    もう、痛い思いしなくていいんだあ。
    それにお金もある。
    これからは、いっぱい楽しいことしようね、うさちゃん。

ノゾミ:……ねえ……まさかと思うけど、
    最近イザヤを見ないのとなんか関係ある……?

 ユミ:……そしたら、どうする?

ノゾミ:!!!!
    ユミ……イザヤになにしたの……!?
    消したの!?

 ユミ:売ったの。

ノゾミ:売ったあ?

 ユミ:要らない人格売ってくださいってひといたから。
    要らないじゃん、あんなひどい人格(ヤツ)。
    みんな困ってたし。

ノゾミ:なにそれ……ちょっと待って、意味わかんないよ。
    売ったってなに?
    どうやって? 誰に?

 ユミ:あ!(にんまり)
    ノゾミちゃんもおんなじだ。
    そっかあ、よかった。

ノゾミ:えっ、なにが

 ユミ:「どうやって」ってことは、
    どうにかして売る方法があるなら、
    ノゾミちゃんも売ってたってことだよね!

ノゾミ:違うよ! 今のはその、単なる疑問で。

 ユミ:いいのに~

ノゾミ:違う!!

 ユミ:ふふ、ノゾミちゃんは私の味方だと思うから教えたげる。
    見て! 魔法の小瓶! 綺麗だよね。
    特別製なんだって。
    人格を閉じ込められるんだ。
    この前《談話室》に一人でいたら
    万屋ってひとが来てさ、
    要らない人格売ってくださいって言ってコレくれたの。

ノゾミ:なにそれ……

 ユミ:…………どうしたの、ノゾミちゃん。
    なんでそんな怖い顔してるの。

ノゾミ:ねえ……あんなヤツだって一人の人格なんだよ?
    瓶に閉じ込めて売ったって……
    たしかにユミは私たちの中では歳が下なほうだけど
    やっていいことと悪いことも
    わかんないほどの子どもじゃな

 ユミ:(さえぎり)じゃあさ、
    イザヤが毎日私たちのこといじめてたのは
    やっていいことなの?
    ひとを痛い目とか辛い目に遭わせるのはいいの?

ノゾミ:ユミ……

 ユミ:私がやったのは悪いことだよ。知ってる。
    でもどうすればよかったの?
    もしかしてノゾミちゃんも
    イザヤとおんなじこと言うの?
    「お前は大人しく泣いてりゃいいんだ」って?
 
ノゾミ:そうじゃない! そうじゃないけどさあ!

 ユミ:「そうじゃないけど」なあに?
 
ノゾミ:……っ!!

 ユミ:答えてよ! 偉そうなこと言うんならさあ!!!

ノゾミ:……それ、は、


(ピンポン音もしくはドアノック音)


ノゾミ:!?
 
イザヤ:(遠くから)宅配便でーす。

 ユミ:(喜ぶ)あ! はあい、今開けまあす。

(ドアを開けるユミ)

 ユミ:はあい。お待たせしまし……

(ドアを開けると
 見知らぬ若い男が笑顔で立っている。
 宅配員の制服ではない)

 ユミ:あれ? 

イザヤ:どうもお。

 ユミ:宅配屋さん……? じゃ、ない……?
    えっ、誰!? やっ!
    (ドアを閉めようとするが足を差し込まれる)
    やだ! なんですか! 出てって!!

イザヤ:冷てえこと言うなよォ~、
    水くせえじゃんか。
    なあ? ユミよお!!(ドアをこじ開ける)

 ユミ:えっ……!? なん……えっ、まさか……!!

イザヤ:(ユミの服の襟を掴み)悲しいねえ~。
    あんなに一緒に遊んだオレがわかんねえか?
    「悪趣味で物好きな魔女」とやらに
    おめえが売り飛ばした、
    イザヤだよ!!(腹に蹴り)

 ユミ:(倒れ込む)
    ぇ゛ほッ……なん、で

イザヤ:さあ、オレもよくはわかんねえけどなァ。
    魔女だかなんだか言うヤツがよ、
    おめえが思ってるよりも
    もう一回り悪趣味で気まぐれだったのかもな。

 ユミ:やっ……! 誰か……カハッ(首を絞められる)

イザヤ:でけえ声出すんじゃねえ。
    ふふ……はは、ハハハッ!!
    (恍惚)ああ……いいもんだなあ、体があるってのは!

 ユミ:イザ……っ……
    (解放される)げほッ! ハァ、ハァッ

イザヤ:最高の気分だぜ。
    むしろ礼を言わなきゃなんねえな?
    ありがとうよユミ。
    またいっぱい遊ぼうぜえ!

 ユミ:いや……そんな……いやああ……!

(ユミの泣き声とイザヤの笑い声が重なり響く)




                       fin_■


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