極彩色ごくさいしきブーゲンビリア】


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15分くらい

マギ:男性。大学生。作曲など創作が得意。基本はテンション低め。

シオ:不問。大学生。文学や美術の知識が豊か。基本は物腰丁寧。

※シオの一人称は「僕」ですが、
 女性が演じる場合変更しても構いません。





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マギ:――たとえば、夏の夕方。
   短い雨が上がった後の、少しむうっとする暑さの中。
   燃えるような色をした雲が風に吹かれて西へと流れていく。
   もう帰る時間だと影が急かす。

シオ:マギ! 待ってよー!

マギ:シオー、早く来いよー。

シオ:(急いで来る)ごめんごめん。
   ……ああ、もうすっかり夕方だね。
   ほら、ヒグラシが鳴いてる

マギ:ヒグラシ?

シオ:ヒグラシ。

マギ:……って、なに

シオ:えっ、知らない?
   セミだよセミ。このカナカナカナカナーっていう声

マギ:ああ……これ、ヒグラシっていうのか

シオ:そうだよ

マギ:――ヒグラシ。シオの笑顔の後ろで聞こえる、
   この甲高くてどこか物寂しい、夏の夕方の音は、
   ヒグラシっていうのか。

シオ:知らなかった?

マギ:知らなかった

シオ:なんの音だと思ってたの

マギ:なんの音だろうと思ってた

シオ:あはは!

マギ:……「日を暮れさせる音」で「日暮らし」か。なるほど。

シオ:日を暮れさせる音……。
   へえ、面白い。そんなふうに考えたことなかったな。

マギ:――シオの横顔と
   そのむこうの夕空が、急に色あざやかに見えた。
   まるで、また一色、俺の世界に色がついたみたいに。

シオ:(回想)……あのオレンジの花は、ノウゼンカズラ。
   黒い実が房(ふさ)になってるあれはヤマゴボウ。
   あっちはテッセン、それから……。

マギ:――シオはとにかく色んなことを知ってる。
   花鳥風月に詳しいっつうのかな。
   風流? ミヤビ? な知識がめちゃくちゃあるんだ。
   おもしろそうなイベントの情報にも耳聡(みみざと)いし
   友達だって、いつもシオがいるから増える。
   みつみ、さりー、ルキオにユージ。
   みんなシオがきっかけでできた友達だ。
   シオはいつも、
   人生が彩り豊かになるようなことを教えてくれる。
   そのたびに俺の視界は、色が増えて、
   あざやかになってくんだ。

シオ:マギ?

マギ:ああ……悪い。なんでもない。行こう

マギ:――シオの目から見た世界は、どんなだろう。
   色をもらう側の俺の視界がこんなにあざやかになるんだ、
   きっとアイツの視界はもっと色が豊かで綺麗に違いない。
   俺とシオの間に上下関係はないけど、
   俺はシオを尊敬してる。


(間)


シオ:……おー、いいね、いい曲!
   ゆったりして懐かしいのに
   どこかちょっと物寂しい、みたいな。
   すごいなあ。

マギ:うん。ありがとな。

シオ:……ねえ、なんか、そういう仲間集めてみる気ないの?
   バンド組むとかさ、同好会みたいなの作るとか入るとかさ

マギ:(笑)いや俺人前で演奏とかできねえし。
   曲作ってんのも趣味で自己満だし。

シオ:もったいないなあ

マギ:シオが一緒にやってくれるなら考えてもいいぜ

シオ:えー! 無理だよ!
   僕オンチだもん。
   カスタネットとかだよ、できるとしたら

マギ:じゃあそうだな、作詞とか

シオ:無理無理。だいたいマギ作詞できるじゃん

マギ:それ言ったら誰にもなにもやってもらう意味ねーよ、
   俺がやってるのパソコン打ち込みなんだから。
   シオが言いたかったのだって、そういうことじゃねーだろ?
   一人でできるできないじゃなくて、
   人とやることがいいって話だろ

シオ:そう! いいと思うんだよ、人とやるのも。

マギ:そうだな。ってことで、シオ、作詞な。

シオ:ちーがーう! 僕じゃないんだって!

マギ:なんでだよ

シオ:僕以外にも友達作ったほうがいいって言ってんの!

マギ:いるじゃん。
   みつみだろ、さりーだろ、ユージだろ、ルキオだろ……
   俺は友達だと思ってるぞ

シオ:じゃあみんなとやろうよ

マギ:あの中だと音楽やってんのユージくらいだけど
   ユージはもうバンド組んでるし

シオ:複数のバンド組んじゃいけないわけじゃないでしょ

マギ:いけなくはねーけど……なに? なんで?
   俺はシオとやってみてーよ。
   だってシオめちゃくちゃ色んな表現知ってるじゃん

シオ:いやまぁ、少しはね。
   でも……僕は……なんていうか……(語尾が小さくなる)

マギ:ふーん。まあ、無理強いはしねえけど。
   でもとにかく、人とやるならシオとがいいって思ってること、
   覚えててくれよ。

シオ:うん……ありがと。考えとく。

マギ:――シオの言いたいことを俺は、半分くらいわかっていて、
   半分くらいは、ずうっとわからないままだ。
   シオは、俺にシオ以外の友達を作って
   親しくなってほしいらしい。
   なんでそうさせたいのかは俺にはわからない。
   いいじゃねえか。
   他にも友達はいる、でも
   友達でいられて誇らしい、なんて思うのはお前だけだ。
   俺はお前がいてくれたら、それでいい。
   お前が俺を認めてくれるから、それで十分なんだ。
   それじゃあ、ダメなのかよ……。


(長めに間)


シオ:――僕とマギは、
   高二で同じクラスになってから仲良くなった。
   一人でいることが多いうえに、
   ダウナーというかローテンションというか
   少しぼーっとした印象だった。
   最初はなんだったかな……そうだ、ヒグラシだ。
   ある夏の帰り道に僕が、ヒグラシが鳴いてるねと言ったら
   急に目を輝かせたんだ。

マギ:ああ……これ、ヒグラシっていうのか

シオ:そうだよ。知らなかった?

マギ:知らなかった

シオ:――僕にとっては何気ない当たり前のことだったから
   高校生になるまで
   ヒグラシを知らずにいられるものなのかと
   驚いたのを覚えてる。
   マギは辺りを見回しながら耳を澄ませ、
   納得したようにため息をついてこう言った。

マギ:……「日を暮れさせる音」で「日暮らし」か。なるほど。

シオ:――僕にとってはそっちのほうが余程衝撃的だった。
   日を、暮れさせる、音。
   なんていう発想力と表現力だろう!
   僕はとんでもない花の種に水をやったのかもしれない。
   そして思ったんだ。
   この花を極彩色に咲かせて
   沢山の人に見てもらわなきゃ、って。

マギ:……ノウゼンカズラ、ヤマゴボウ、テッセン?
   それから……

シオ:――僕の知識は持てる限り惜しみなく伝えたい。
   友達だってどんどん紹介してつなげたい。
   だってキミは、すごいやつなんだ。
   僕だけのもので居たいなんて言わないでくれ。
   もっともっと大きく咲き誇ってほしいんだ。


(間)


マギ:あれ、シオ。珍しいな、授業は?

シオ:休講。マギこそ、いつもこんなに
   花に囲まれて勉強してんの?

マギ:今日天気いいし、たまには
   中庭テラスで優雅に作業つーのも悪くねえなと。
   しかし暑いから直射日光が当たる席はやだなと。
   んで日陰の席にしたら花壇が近かった。

シオ:なるほどね

マギ:なあ、この花なんていう花?

シオ:花ならなんでも分かると思わないでよ

マギ:知らねえかー

シオ:ブーゲンビリア

マギ:知ってんじゃねえか

シオ:はっはっは

マギ:ちなみに今日は勉強じゃなくて作業。
   課題は昨日終わらせた

シオ:ヤバ、えらすぎ

マギ:そうだろ

シオ:作業って作曲?

マギ:うん

シオ:すごいなー。
   なんか、動画にして投稿とかしないの?

マギ:ネットに? やだよ。
   ヘタクソとかやめちまえとか言われるだろ

シオ:マギすごい治安悪い世界想像してるでしょ……
   大丈夫だって、
   治安のいいプラットフォーム選べばいいんだよ

マギ:どこだよ治安いいインターネットって。
   つーかどこに投稿したって
   でかい掲示板サイトには悪口スレッド立つだろ

シオ:悪口が怖いからせまい世界にいたいの?

マギ:(いらだつ)なんだよその言い方。
   俺が作ったもんを人前に出すか出さないか俺が決めて
   なにか悪りいかよ

シオ:(力説)僕から見るともったいないんだよ。
   マギはなんだってできるじゃん。
   曲は作れる、詞は書ける、絵も描ける、歌もうまい。
   しかも、ただできるだけじゃなくて
   センスもめっちゃあるじゃん

マギ:んなんじゃねーんだってマジで

シオ:ほらすぐそういうこと言う。
   そんなに色々できるくせに
   ただの趣味だからとか言って埋もれて燻(くすぶ)ってるの
   見ててじれったいんだよ。

マギ:それ言うならお前だって
   花とか鳥とか詳しいし
   文学だの美術だのの知識だってあるじゃん。
   お前こそなんか、やってみりゃいいじゃねーか。
   自分はできないとか言ってないでさ

シオ:知識なんかその気があれば誰でもつけられるだろ。
   知識だけじゃセンスのある人には敵わないよ。

マギ:情けねえこと言うなよ

シオ:事実なんだからしょうがないじゃん

マギ:……だからぁ! ちげーんだって!

シオ:っ……!

シオ:――怒ったか、と思ったけど、どうやら違うらしい。
   マギは泣きそうなくらい悲しい顔をして、
   こぶしで力なくテーブルを叩いた。
   背景に咲いてる花の色だけが妙にあざやかで、
   悲しそうなマギの様子とちぐはぐだった。

マギ:(切実に吐露)
   ……俺が本気ですげえと思うのはお前なんだよ、
   お世辞でもなんでもなく。
   そのお前は俺のこと認めてくれてるじゃん。
   それ以上なんもいらねーんだよ……
   何十人に認められるとか、どうでもいいんだよ。
   なんで分かってくんねーんだよ……。

シオ:――背を丸めて小さくなるマギは
   そのまま花に呑み込まれてしまいそうだ。
   ブーゲンビリア。
   その花言葉をぼんやり思い出す。
   「あなたは魅力的」、そして、「あなたしか見えない」。
   僕から見たら「キミは魅力的」だ、それなのに
   キミは「お前しか見えない」と言うんだ。

シオ:……そうか。

マギ:……ああ……

シオ:わかったよ。もう言わない。

マギ:……呆れたか?

シオ:(淡々と)ううん。無欲だなとは思うけど。
   まあでも、そうだよね。
   大勢に認められることだけが人の価値じゃないもんね。

マギ:そうだよ。

シオ:うん。

マギ:……ほんとに分かるのか?

シオ:ほんとだよ。信用ない?

マギ:だって、あれだけ言ってたのに急に。

シオ:ははは。
   一人だけに認められればいいっていう
   その一人が僕なんかで本当にいいのかは分かんないけど、
   僕はマギをすごいと思ってて、
   それは今後も変わらないから。

マギ:……「でいい」、じゃねえよ。「がいい」だよ。

シオ:――返事の代わりに僕がこぶしを向けると、
   マギは少し弱々しく笑って
   こぶしをトンと合わせてくれた。

マギ:……ありがとな。

シオ:いえいえ。

シオ:――僕が笑って見せると、
   マギも安心したようにため息をついた。
   僕は……本音を言えば、やっぱり残念だ。
   キミは多くの人をハッとさせることができるやつだって
   今も信じてるし、
   それをしないなんて世界の損失だと思ってる。
   でも、無理強いすることじゃない、ってのも
   分かってるんだ。

シオ:――この大輪の花が僕のためだけに咲くことに、
   じれったさ、くやしさ、さみしさ……
   ……そしてほんの少しの、ほの暗い喜びを感じながら、
   僕はこれからも水を注ぎ続ける。
   キミがくれる沢山の色を噛みしめながら。



                       fin_■


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