【劇団ピーターパン】

VI


 しとどに濡れた私の前に、笑顔のジャックが舞い降りた。軽やかな音の拍手を街路に響かせる。 

「素晴らしい!とっても素敵なショーだったよ」 
「どうも。 
 あなたは出演していなかったけど?」 
「ぼくは総合演出なんだ」 

 けろりと笑って肩をすくめる。私はメスの滴をふるい落とし、袖で拭いた。
 やがてどこからともなくみんなも現れる。 

「ブラヴォー!興味深い復讐劇だったよ」 
「おめでとう!これでウェンディもピーターパンの一員ねっ」 
「……おつかれ」 
「まあまあ楽しかったわ」 
「けっ。しかしえげつねぇ殺し方しやがるなあ。子宮をえぐりとるとはね。おっかねぇ」 

 ハンスはそう言いながらもにやにやしていた。エミールは腕組みをして応える。 

「妊娠出産といった『母』としての宿命を持つと同時に、
 嫉妬や執着に囚われやすい『女』の宿命をも併せ持つ……。
 同性の親子の複雑極まる悲哀をしかと感じられたよ。 
 女性というのはまったく業が深い。
 それが男には持ち得ぬ毒性の強い甘美さの種なのだろうね」 
「エミール、毎回そのくどくどした評論はどうかと思うわよ」 
「そんな。僕は感動を口にしただけだよ」 
「エミールはいつも難しいこと言うよねぇ」 
「はは。ま、でも、ぼくもそう思うな。楽しい劇だったよ。ぼくらも参加できて光栄だ」 

 にっこりと爽快そうに微笑んで、ジャックは右手を差し出した。 

「改めて、ウェンディ、劇団ピーターパンへようこそ。
 これから仮部員じゃなく名実ともに一員として、一緒に活動していこう。よろしくね」 

 私は汚れたままの手でジャックの手を握った。 

「ええ。どうぞよろしく。みんな仲よくしてね」 

 温度のない手のひら同士が赤を介して重ねられる。 
 私はひとりじゃなくなった。やっと友達ができたんだわ。
 その感触が私の身体なき身体を温かく包む。 

 ああ、なんていい宵かしら! 

                        ■_fin





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