【劇団ピーターパン】
II
金曜日の夜、時計塔に上ると、そこには6人ほどの子供がたむろしていた。
ゴチリと重い針の音とともに9時を知らせる鐘が鳴り響く。
ゴーン……ゴーン……。
XIIの数字の真上に腰かけていたジャックが私に気づき、手をふった。
ゴーン……ゴーン……。鐘のなり終わりを待って、ジャックは口を開く。
「やあウェンディ!いらっしゃい」
「こんばんは。みなさんお揃い?」
「うん。みんな、こちらがさっき話した新入りのウェンディだよ」
みんなは腕を掲げたジャックを見、それから私を見た。
笑顔の子と無表情の子が半々といった感じ。
「みんなのことも紹介するね」
リーダーのジャックは相変わらずの飄々とした顔で笑う。
11歳のハンスは少年スリ団とチンピラの手下で人生を終えた。
ニーナは科学者の父親に実験台にされて14歳で死んだ。
エミールは美少年で頭も家柄もよかったけど
家庭教師の男にはレイプと脅迫を、親には厳重すぎる束縛と虐待をされて
享年16歳。
12歳のミーシャは花売りをして稼いだ金を
ぜんぶ里親と愛人の酒代にとられ餓死。
9歳のアレックスはさる貴族のご落胤で、
家名を貶めないために母親ごと消された。
「まるで不幸な子供の見本市ね。ふふ、仲良くなれそう。よろしくね」
「オレは認めてねーぞ、新入りなんて」
ハンスがすねたようにそう言った。
本人は抗議のつもりなのだろうが、私にはすねているようにしか見えない。
ジャックは肩をすくめた。
「そう言うなよ。こないだまでは君が一番新入りだったろ」
「あっ、バカ!いうなよそれ!」
「ウェンディ気にしないで。こう見えて悪い子じゃないんだ。
一応聞くけど他は?」
紳士的なエミールは
「僕は歓迎だよ。どうぞよろしく。素敵なお嬢さん」と微笑む。
「ジャックが決めたことには従うわ」とニーナはクールだ。
無口なアレックスは「……別に」とだけ。
「あたし、女の子が増えるのはうれしいな」とミーシャは
可愛らしく言ってくれた。
「改めて可決だね。めでたしめでたし。
さて今日の計画だけど、ウェンディの希望を採用して、
娼婦のメアリーが標的です。
ダウンタウンのクレアムストリートあたりにいるはずなんで、
見つけたら連携をとりながら追い詰める。
とどめはウェンディにやらせてあげよう。
質問ある?」
「新入りにとどめはまだ早ぇよ。オレやりてぇ」
「却下。他には?」
「なんだよッ!」
ハンスとジャックのやりとりにはつい笑ってしまう。
ピーターパンは本当に楽しそうな集団だなと思える。
「ねえ。ターゲットを追いつめてくことについて、
具体的なことを聞きたいんだけれど」
「OK、ニーナ。
相手は40すぎのおばさん娼婦なんで、こっちも大人の男に化けて
誘い出そうと思ってる。
女子も娼婦とか近づきやすい姿に化けてくれるとありがたい。
だいたいいつも通りに」
「了解」
私は何をしたらいいのかしら。質問したほうがいいわよね。
そんなことを考えていると、ジャックは心を読んだかのように
くるりとこちらを振り返った。
「さて、ウェンディだけど」
「そうそう。私は何をしたらいい?」
「まずとどめをさす道具を選んでよ」
取り出したのは、ペンのような形をしたナイフだった。
柄が細長く、刃の部分は短めだが、かみそりのように薄くて鋭い。
工芸などに使うタイプだろうか。
「これはぼくのお気に入り。医者が手術に使うメスっていう刃物に近いんだ。
かみそりと一緒で、あまり力を入れなくてもすぐ切れる。
かみそりと違うのは刺したり切り開いたりできること。
それとももっと大きい包丁や鉈がいい?のこぎりもハンマーもあるよ。
まあ、ぼくらは道具を使わなくても、強く念じれば殺せるけどね」
花冠に差す花の種類を選ぶような口調。刃と柄が一体になっている、
ひんやりとしたナイフ。刃の峰をなでるだけで切れてしまいそうだ。
短い刃先はしかしきらきら光って、自慢げに威力を示している。
「……ううん。これでいいわ」
「よし。じゃあ、ホワイトチャペル・ロードあたりに追い込んでいくから
待っていて。見つけてその先は、君の好きなように」
ジャックのあどけない笑顔が、ウィンクとともに残忍な色を帯びる。
ありがとう、そう返した私もきっと、同じ表情をしていることだろう。
「さぁて。
メアリーはパブ歩きだし、人通りが少なくなるまでもう少し待とう。
何して遊ぶ?」
|
|
お問い合わせ・ご連絡は Twitter @safaca9s または safaca9s @ gmail.com まで |